11月13日と20日の二日間に亘って、土曜セミナー「本作りこれだけは」、本講座の学校長でもある下村昭夫氏(オーム社雑誌部)を講師に迎えて行われた。この講座は、5月に開講されている「基礎講座」を受けることのできなっかた方のためのダイジェスト講義。
1日目の講義は、午前中に、ビデオ『本づくりこれだけは―書籍編集の実際―』が上映された。このビデオは企画・製作・出演者・音楽にいたるまで、すべて出版労連のメンバーによる手作りの作品。
ストーリーは、ある新人編集者が一冊の本を世に送りだすまでの過程を、先輩編集者・著者・印刷所の人などとの会話を交えつつ、起こしやすいミスや作業上の注意点を実践に即して理解できるようになっている。また、ところどころで本の部位や名称、紙の大きさの種類についての解説もされている。
ビデオ上映後の講義は「編集者の仕事、製作者の仕事」「出版流通の基礎知識」の2点を柱にすすめられた。
「編集者の仕事、製作者の仕事」では、本づくりの基本として“初期段階での明確なイメージとプラン作り”がもっとも大切であることが強調された。
また“編集者と製作者の仕事は、企画段階と製作段階にどのように関わるかによって区別される”が、多くの出版社では、その区別がなくなりつつあるということだった。
「出版流通の基礎知識」では、出版産業の市場における書籍と雑誌の割合や基本的な流通の流れ、また、1日平均300点もの新刊が発行されている実情などの説明ののち、“本とは1册1册が独自の価値をもつ創作物である”と前置きされたうえで、出版業界が再販制度を守ることの重要性に話が及んだ。
また、現在の流通コストの分析では、書店のマージンが20%あったとしても、“「1000円の本を売上げた場合の書店の諸経費を差し引いた純利益は5円である」という実態も踏まえ、出版産業全体の発展と再販制度問題を考える必要がある”と結ばれた。
午後からは、「印刷の基礎知識」に入り、活版・グラビア・オフセットの三大印刷の大まかな原理が説明されたが、現在は活版は消えつつあり、90%がオフセットで行われているということだった。
また、文字の大きさや種類、写植の仕組み・CTS・DTPといった組版システムの解説がなされた。
その後、いよいよ書籍製作の具体的なノウハウを学ぶ「本の制作」に入り、まず、本の製作業務とは、原稿を受け取り、本の形になるまでのさまざまな段階で、指定を行ない、指定通りになっているか確認する作業を繰り返すことであり、「手際よく、ミスなく本を仕上げる管理者が製作者」であることを指摘。(編集者がこの業務をすべて行なうことも多いので、編集者と言い替えてもよいのですが、ここでは厳密に製作者としておきます。)
次に、この講義では、いわゆるDTPなどでなく、印刷所に紙で(フロッピーでデータを渡す場合でもプリントアウトしたものに指定をしたうえで)入稿することを前提としていることを確認し、具体的な作業工程の説明に入る。
「原稿整理」では、原稿の取り扱い方(原稿にナンバリングすること、綴じ方、図版、写真原稿の取り扱いなど)を丁寧に解説。また「進行表」の重要性を強調。さらに原稿整理をするにあたって、はじめの段階で、1冊の本のなかのルール作りを徹底することを強調。
「原稿の指定」では、まず本の組み立てと順序について、原則的な前付、本文、後付の構成とそれぞれ箇所が改丁、改頁の何れの頁の改まり方をするのが原則か、などを解説。
この後、組版指定の用語解説、具体的な指定の仕方を指定紙、校正刷り、出来上がっている書籍などを回覧しながら、詳しく解説。
とくに、組版指定において、1册の本のまさに基本の“型”を決める「基本版面」決めることが大切なものであり、本番の組み版に入る前に「見本組み」版を作ることを薦められた。
「正しい指定をするために」(テキスト13頁)では“他人にも分かるように指定する”ことが何よりも大切であると強調された。
装丁者や装画家の指名は特に欠落しやすい箇所であるため、指定後も気を抜くことなく点検を行うよう注意を促された。
また“制作指定ノート”の重要性については、スムーズな制作進行に役立つだけでなく、後々の反省や企画立案の大切な資料にもなるということであった。
「制作指定ノートの書き方はその人それぞれであるが、企画の成り立ち等のプロセスも記入しておくと、特にシリーズ展開をしてゆく本などについては、後々たいへん参考になる。」ということであった。
「制作の進行管理」(テキスト16項)では、製本所に迷惑を掛けないためにも、本文の進行を中軸に据えつつも、カバーやスリップ等の付物の進行が送れないように配慮するよう述べられた。
「校正の回転と校了業務」(テキスト18頁)では“初校時の確認が非常に大切である”と念を押され、ゲージを使った版面の確認を薦められた。
最終段階の校了時においでは、改丁・改頁の確認等、組み版指定と同様に入念な確認を行うよう述べられた。
「印刷注文・製本注文」(テキスト19頁)では、トラブル回避のためにも口頭ではなく、必ず印刷注文書で発注を行うようにと強調された。
「製本の知識」(テキスト22〜23頁)では、製本の途中段階の本を見本に、本の各部の名称や製本形式の種類、平綴じ・中綴じ等の製本の言葉の説明がなされた。
「紙の基礎知識」(テキスト24頁)では、紙の表と裏や“目”、紙の種類による印刷適性について述べられ、特に“目”は本の仕上がりに大変関わりがあると言うことであった。この項目については実際の職場ではなかなか説明されないためか、受講生の方々の関心も強かったようである。
さて、休憩後は、「書籍と雑誌の違いについて」考えながら、「雑誌作り」 の説明が、始められた。
「雑誌とは何か」という命題のもと、雑誌のルーツから、種類・形態や特徴、また、現在流通する書籍と雑誌の位置付けなどが、発行部数や販売実績などの詳しいデータをもとに、さまざまな角度から検証されていった。
雑誌は休廃刊が多く、「創刊と休廃刊」の追いかけごっこ。しかし、「時代を写すもの」として、読者や社会情勢への適合性の高い雑誌は、まさにその時代を反映する集大成ともいえる。
その「雑誌づくりのプロセス」では、企画会議や編集会議、原稿依頼、取材・執筆、編集長をはじめとしたスタッフ各々の役割の解説がされ、創刊の原点を省みる大切さや、読者と共に、と同時に常に半歩前を歩くこと、また「時代を捉えるものの責任」等が強調された。
盛りだくさんの「講義」 内容に受講者も大満足、次回を楽しみに参会した。
20日。二日目の講義は、現在の雑誌はカラーを主体としているものが多いことから、「カラー製版の基礎知識」へ講義は進んでいった。一つ一つの事例にサンプルを提示し、Y・M・C・Bkの4色分解についても、製版で実際に使われる4色のフィルムを実際見ることによってより分かりやすく解説された。
また、製版指定や色校正・青焼き校正についても、指定紙や校正紙が各受講生に配られ、より実作業に即した詳しい説明がなされた。
中でもでも好評だったのが、雑誌編集で長年経験を積まれた下村氏によるトラブル対処法の「ウルトラC」。さまざまな「トラブル」をどう解決していったかという対処法は「長年の経験と基本技術」に裏付けられた判断力によるもの。初心者にはたいへんためになった。
「トラブルのない編集者はいない。さまざまなトラブルに直面したとき、自分の判断でどれだけ切り抜くことができるか。」が、大切なことと力説する下村氏。2時間という時間があっという間に過ぎてしまった。たいへん充実した講義であった。
午後からの講義は、まず、校正の方法や注意点などの概論の解説、課題の練習問題の解答に沿いながら、校正記号の簡単な説明が併せて進められた。
その後、「電子編集」の講義に入り、80年代以降の「印刷の技術革新」「ニューメディアの登場」「コンピュータを持った編集者たちの登場」「CD-ROMなど電子出版の誕生と進歩」「MacDTPの登場と進歩」「Winndows'95の登場とインターネット」 など、この20年間の「情報のディジタル化」の流れを解説した。
そして、今職場で、遭遇する「ディジタル原稿取り扱い」「さまざまな電子ファイルの上手な取り扱い方」「DTPとの付き合い方」 などが解説された。
二時半のからは、デモに移り、サポート役の大修館の石川一行氏が「e-Book」端末機を全員に回覧しながら、その機能の紹介、続いて、CD-ROM版「エンカルタ」の機能と使いかたを披露してくれた。
ホームページ編では、下村氏が出版労連のホームページで開講しているWeb版の「出版技術講座」 の仕組みを解説。このページに付属資料編として、「カラーチャート」を提供している合同労組の前川裕子氏が、Web版「カラーチャート」の使い方を説明、続いて、Macを使って、装丁の「見本」示しながら、下村氏と共同で、データを出力センターに出す場合の注意事項を解説してくれた。
デモの最後は、電子辞書「広辞苑」の開発に携わった岩波書店の渡辺勝之氏によるCDーROMの使い方とソフト開発の難しさなどを解説してくれた。
休憩後は、最後の課題の「編集者のための著作権の基礎知識」(テキスト64〜69頁)が、下村氏作成によるクイズ形式の「著作権Q&A」で受講生と対話しながら、聞く者を巻き込んでゆく、スピーディーな話しぶりに日頃、著作権のさまざまなトラブルに巻き込まれている受講生は、一言もで聞き漏らすまいとノートをとるのが精一杯で、内容盛りだくさんの素晴らしい講義。
クイズ終了後、改めての講義では、まず、「何のための著作権制度か」という説明から入り、次に「著作物の誕生・発生・保護」「著作者の権利」「著作者と著作権者と出版者」とテキストにそって解説がなされ、最後にトラブルの多い「引用」についての説明で締めくくられた。
職場で、著作権だけでなく、「さまざまなトラブルが発生」そのトラブルを関係者だけの”秘密”にして、隠してしまうから、教訓が生まれない。ベテランの人たちは、トラブルをみんなの「生きた教材」 にするゆとりよ勇気をもって欲しいと、言葉を結ばれた下村氏の言葉は、受講生の共感を呼んだ二日間に亘る講義であった。