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言論・出版・表現の自由 : 3月12日東京都の青少年健全育成条例の改訂に反対する要請を実施
投稿者: kinokino 投稿日時: 2010-3-12 17:37:12 (4559 ヒット)

3月12日、出版労連は、現在東京都議会で審議されている青少年健全育成条例の改定案に反対する要請を東京都議会総務委員会所属議員と都議会各会に対して行いました。提出した「要請書」を掲載します。




東京都議会各会派 御中
東京都議会総務委員会所属議員 各位


青少年条例の改定・強化に反対してください(要請)

 私たち日本出版労働組合連合会は、出版社、取次、書店、専門紙、フリーランスなど出版関連産業に働く労働者約6000人で組織する唯一の産業別労働組合です。1958年の結成以来、憲法で保障された「言論・出版・表現の自由」と「流通の自由」は、出版産業の存立・発展を保障する最も重要のものと位置づけています。それは、戦前の言論統制が招いた悲惨な戦争やあまたの犠牲の反省に立つものでもあります。
 私たちは、表現活動は基本的に自由であるべきと考えています。したがって、行政措置としての図書規制には反対であり、東京都の「不健全」図書指定制度を容認する立場にはありません。ただ、1964年に制定された東京都青少年条例は、他の自治体の条例とは異なり、事業者による自主規制の尊重を明記する希有な条例として、様々な問題はありつつも事業者や規制強化に反対する市民、労働組合などの監視・要請を受け、それなりに謙抑的に運用されてきたことに一定の評価をもっていました。
 ところが、2004年の条例改定後、青少年条例の担当部署が従来の生活文化局から新設された青少年・治安対策本部に移管されたことで、青少年問題の取り組みが福祉的対応から取締りを基本にした管理的対応に変化したと認識せざるを得ないものとなりました。
 このほど、東京都議会に提出された青少年健全育成条例の改定案は、2004年来の方針転換(さかのぼれば1999年にその萌芽があった)をさらに推し進める内容であり、私たちの危惧が杞憂ではないことがはっきりしました。しかも、図書規制のみならず、市民個々人に対する規制(個人規制)にまで踏み出そうとするものだと、認識せざるを得ません。
そもそも、青少年・治安対策本部が条例改定を目指す根拠とした、第28期青少年問題協議会は、従来公開で行われていた会議が総会と拡大専門部会を除いて、傍聴を許さないなど密室的に進められたもので、起草委員会の議事録はいまだ公開されていません。このように、今回の条例改定案は議論の内容において、また上程に至る経過にも不透明な点が多々あり、民主的な運営とはいえません。
以下、出版産業で働くものとして、また、言論・表現活動に直接携わる立場から、青少年条例の改定案について、その問題点を下記のとおり具体的に指摘しました。
都議会議員の皆さまにあっては、慎重なる審議のもと、ぜひとも条例改定案に反対してくださいますよう要請いたします。


          記

1.「非実在青少年」の描写にかかわる「不健全」指定制度及び「表示図書」規制の新設について

 法と道徳を一体化し、表現の自由を侵害する「不健全」図書指定制度の拡大に反対します。「非実在青少年」にかかわる性表現を新たな「不健全」指定の事由に追加するとした改定案第五条の二第2項及びこれに連動した「表示図書」の規制にかかわる第九条の二第2項は、表現に対する「内容規制」をいっそう推し進めるものであり、新設を認めないで下さい。

(1)図書規制は、公権力の憲法遵守義務に違反します
(2)条例を改定する理由を見いだすことはできません
(3)創作表現における登場人物の年齢確認はどのように行う?
(4)条例改定の根拠とされた青少協の議論の中身と委員の偏りに疑念があります
(5)「非実在青少年」なる概念を「表示図書」に強制することは容認できません
(6)国会の審議でも、創作物の規制に疑義が出ています

2.「表示図書類に関する勧告等」にかかわる条文について

 出版業界では「R18」等を表示した出版物は、成人向けコーナーなどで区分陳列(ゾーニング)を行っています。これは、あくまでも業界団体や出版社が自主的な判断のもとで行っているものです。にもかかわらず、公権力が出版社や自主規制団体に「自主規制」を行うよう勧告し、従わない場合、公表するというのは、「不健全」図書指定による販売規制以上の効果を有しかねない、実質的な「権力規制」となってしまいます。また、前項の指定事由の追加同様、憲法上の表現の自由を制限する条項であることは明らかです。第九条の三第2項?4項の新設を認めないで下さい。

(1)表現の自由を侵害する「内容規制」を容認できません
(2)「自主規制」の悪用が危惧されます

3.児童ポルノにかかわる条項について

 すでに、現行児童ポルノ処罰法によって、いわゆる「児童ポルノ」の取締りが行われており、東京都が条例化して規制を行えば屋上屋を架すことになります。また、国会においては、児童ポルノ処罰法の改定案が上程されたものの、法務委員会の審議においては「単純所持」の処罰化の導入などに疑義が呈され、また、3号ポルノの定義など現行法のあいまいさが指摘されているところであり、これらの問題点を捨象する条例改定は容認できません。国会の動きを静観し、改定案の第三章の三「児童ポルノの根絶に向けた気運の醸成及び環境の整備」の条項すべてを削除して下さい。

(1)国会審議では自民・公明党改定案はもとより、現行児童ポルノ処罰法の問題点も明らかになっています
(2)条例改定案は、法と道徳の分離を蔑ろにしています
(3)拡大解釈を可能にする不自然な条文があります

4,ネット規制にかかわる条文について

 出版各社とかかわりの深いケータイ小説やデジタルコミックは青少年の日常に浸透し、生活の一部にもなっています。条例による規制によって、青少年のこれらのメディアとの接触機会が損なわれてはならないと考えます。
 一方で、ケータイマンガなどを事業化している出版社で構成するデジタルコミック協議会は、「18禁」マークを制定し、区分販売の態勢を整えたものの、携帯キャリアの公式サイトでは大人への販売そのものが困難な状況となっていると聞いており、条例強化によって、(条例が関知しないはずの)大人への販売がいっそう厳しくなる事態が予想されます。
 青少年のメディアとの接触機会を保障すること、事業者の活動を阻害しないことに留意すべきだと考えます。
 携帯キャリアやネット関連の自主規制団体からは、改定案は憲法違反の条項があるとの指摘もなされていると聞いています。過激な規制を行うべきではありません。

5.改定案全体の問題点について

 現行の条例では、「青少年にとって不健全」という前提のもと、「有害」の用語の使用を排除しています。実際には「有害広告物」の条項に使われているだけでした。ところが改定案では、ネット規制と児童ポルノ規制にかかわる条文に、固有名詞(法律名)とは別に、「有害」の用語が挿入されていました。1964年の条例制定時の都議会の議論を踏まえるならば、特定の価値観を反映した「有害」の用語は使うべきではありません。言葉だけの問題のように見えますが、規制範囲の安易な拡大だけでなく、条例の変節を追認することになってしまいます。あらためて、「不健全」の用語が使われている意味合いを再確認してください。

6.現行条例の不備とそれに付随する問題について

 私たち出版労連は、2003年12月17日に第25期東京都青少年問題協議会各委員並びに東京都に宛てて、「自主規制型条例を堅持し、慎重審議を求める要請書」を、2004年2月2日には都知事に宛てて「第25期東京都青少年問題協議会答申に対する意見」を提出し、その際、「不健全」図書指定の可否を審議する健全育成審議会の全面公開、「不健全」指定の取り消し・異議申立手続きの整備、国連・子どもの権利条約にもとづく子どもの意見表明権の尊重も同時に求めています。これらはいまだ実現していません。また、従来、傍聴が認められていた青少協の会議が、今期は総会と拡大専門部会を除き、全面非公開となりました。密室審議の結果、異常な答申がまとめられてしまったといえます。条例改定案の審議に際しては、以上の事柄を精査し、諸手続の整備、徹底した情報公開を是非とも実現して下さい。

(1)指定処分取り消しの手続きの不備を改めるべきです。
(2)密室審議となっている青少年問題協議会や健全育成審議会の運営を改めるべきです
(3)当事者たる青少年の声を聞いてください

 以上の点をご考慮いただき、「言論・出版・表現の自由」と「流通の自由」を侵害する条例強化に反対するとともに、条例の不備を正して下さるよう要請いたします。



【各論】
1.「非実在青少年」の描写にかかわる「不健全」指定制度及び「表示図書」規制の新設について

 法と道徳を一体化し、表現の自由を侵害する「不健全」図書指定制度の拡大に反対します。「非実在青少年」にかかわる性表現を新たな「不健全」指定の事由に追加するとした改定案第五条の二第2項及びこれに連動した「表示図書」の規制にかかわる第九条の二第2項は、表現に対する「内容規制」をいっそう推し進めるものであり、新設を認めないで下さい。

(1)図書規制は、公権力の憲法遵守義務に違反します

 東京都は、現行条例において「性的」「残虐性」「自殺・犯罪誘発」の3類型の表現を対象に、「不健全」図書指定を行っています。本来的には、表現物の内容の是非について、表現者・発行者あるいは販売業者、さらには読者がそれぞれに判断すべきものであり、行政が表現物の「健全」「不健全」を判定することは容認できません。そもそも、憲法の命令により、主権者の権利たる表現の自由を守るべき義務を課されている公権力が、それに違背する法や条例を制定することは禁止されています。法と道徳の分離も、近代法制の大原則です。
 ところが、かつての青少年問題協議会では表現の自由にかかわる主張を封じていました。今回の答申をとりまとめた青少協副会長の加藤諦三氏は、販売規制の強化を検討した2003年の第25期青少協でも副会長を務め、次のような発言を行っています。
「青少年健全育成の視点に立った検討をお願いしたいと思うのですが、つまり出版の自由とか表現の自由という憲法上の問題ではなくて、青少年への販売に限って規制をどうするかということであって、この種の出版が、表現の自由とか出版の自由を不当に侵害するか侵害しないかという議論の問題ではないということです」(第25期東京都青少年問題協議会第3回専門部会、2003年11月10日)
 このような姿勢は、今期(28期)青少協でも引き継がれていたと受けとめざるを得ません。前提を欠いた青少協の答申に正当性はないと考えています。
 しかも、改定案第五条の二第2項及び第九条の二第2項は、従来の「不健全」指定の範囲を大きく踏み越えるものであり、行政が条例の目的と主張してきた「販売規制」の側面ばかりではなく、表現そのものを規制する「内容規制」色がいっそう強まっています。
 そもそも、青少年条例による図書規制に対しては、多くの学説が違憲の立場を取っています。最高裁が青少年条例による性的表現の規制にかかわり、合憲性を判断した判例はごく少数であり、暴力・残虐表現、自殺・犯罪誘発表現の規制にかかわる合憲性の判断はいまだ存在していません。
 最高裁が青少年条例を合憲とした根拠は、出版・表現行為そのものを規制するのではなく、流通規制にとどまるものであり、18歳以上の者が指定図書を読むことを禁止したものではない、という理由でした。私たち出版労連は、流通の自由があってこそ、出版の自由が実現されるものであり、最高裁の判決は受け入れがたいものの、最高裁判例に照らしたとしても、東京都が青少年条例、ないしは新たな条例によって、判例を踏み越える内容上の規制を行えば、明らかな憲法違反になると考えます。

(2)条例を改定する理由を見いだすことはできません

 「不健全」指定が出版の自由に抵触することを前提にしつつも、指定実績をみると、発行者らの判断(いわゆる「自主規制」)の反映として、現状においては毎月数点にとどまり、特段の問題が起きているわけではありません。むしろ東京都が毎月十数点の指定を乱発していた時期よりも大幅に減少しました。
 一方、実際の運用面では、条例・施行規則の条文には明文化されていないにもかかわらず、東京都はすでに、学校内を舞台にした性的描写を理由にマンガ等を「不健全」図書に指定してきました(山本直樹氏の『Blue』がその典型)。従って、新たに制定を目指す「非実在青少年」にかかわる性的描写は、すでに「性的」を理由にする「不健全」指定対象の表現物の一部として(恣意的に)運用されてきたも同然となっています。このような運用を行っているにもかかわらず、指定件数が減ることはあっても拡大することはありませんでした。実態面においても、新たな指定事由を導入する根拠はありません。

(3)創作表現における登場人物の年齢確認はどのように行う?

 条例改定案では、新たに「自主規制」を求めようとしている表現物を次のように定義しています。
 「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの(以下「非実在青少年」という。)を相手方とする又は非実在青少年による性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」(第7条の2)
 その上で、新たに「不健全」指定の対象にしようとしている図書の定義は次のようになります。
 「販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、第七条第二号に該当するもののうち、強姦等著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写したもので、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく阻害するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」(第8条の2)
 マンガ等の創作表現において、明示的に示されていない場合、描かれているのが児童・青少年であるか否かをどのように見分けるのでしょうか。姿は子どもに見えながら、設定では大人、あるいは、その逆もあり得ます。そのとき、行政が恣意的な解釈をすることはないのでしょうか。
 たとえば、性教育的な内容も含まれていた手塚治虫の作品「ふしぎなメルモ」では、9歳の主人公の少女が大人に変身したり、幼児や受精卵になったり、動物に姿を変えたりという場面があり、さらには着衣をいっさい付けない裸体も描かれています。動物に変身したときには、オスに交尾を迫られる場面もありました。この場合、主人公は9歳なのでしょうか、20歳なのでしょうか、あるいは0歳なのでしょうか。主人公が動物に変身したときに交尾を迫られた場面は、性交類似行為なのでしょうか、強姦未遂なのでしょうか。主要な読者・視聴者層であった小学生に「性に関する健全な判断能力の形成を阻害」したと強弁することも可能な作品になってしまうのではないでしょうか。
 「ふしぎなメルモ」は改定案の想定する規制対象の創作物には当たらないと、提案者は弁明するであろうと思われます。
 しかし、このような条項ができることで、今後、東京都からの干渉を免れるために、創作活動の場では過剰な自粛が行われ、表現活動が萎縮するであろうことは火を見るよりも明らかです。過去のすぐれた作品も、発表の場を失いかねません。

(4)条例改定の根拠とされた青少協の議論の中身と委員の偏りに疑念があります

 2001年の条例改定の際には、「自殺・犯罪誘発」が新たな指定事由に加えられてしまいました。しかし、他の道府県では90年代半ばより「自殺・犯罪誘発」を指定事由に加える条例改定がはじまり、それが一巡したところで、東京都は条例改定案を策定するという段階を踏んでいました。
 当時の青少年問題協議会では、自殺にかかわる図書について、「子どもが自殺とは何かを理解していれば心配ない」「子どもが孤立した環境でみるのでなければ問題ない」などと規制に異論を唱える委員が多数を占め、これらの意見が実質的に答申に反映されることはなかったものの、それなりに慎重な議論が行われた痕跡はありました。さらに、「今回は自殺だが、差別用語やナショナリズムなどが今後でてくる可能性があり、そのたびに条例を改正するのなら、どんどん増えてしまう」と危惧する意見も出ていたと聞いています。
 このころまでは、東京都は他の自治体に先行して強権的な規制に踏み切ることはなく、謙抑的な姿勢の片鱗があったようです。一部の論者のなかには、規制一辺倒ではない東京都の姿勢を評価して「福祉型」条例を呼ぶ向きさえありました。
 ところが、今期の青少年問題協議会では、図書類の規制に慎重な委員は見あたらず、規制一辺倒の議論がなされていたことが議事録で確認できます。それだけではなく、図書規制を推進する団体の利害関係者が委員を務めるという、偏った人選が行われていました。今回の条例改定の動きは、いまだ他の道府県において議論のない事柄を、あえて率先して規制しようとするものであり、かつての姿勢を180度転換した「管理型」条例のいっそうの強化を図ろうとするものであると受けとめざるを得ません。

※青少協の運営上の問題点は、パブリックコメントに応じて東京都青少年・治安対策本部宛に提出した別紙「第28期東京都青少年問題協議会答申素案に対する意見」(抜粋)を参照下さい。


(5)「非実在青少年」なる概念を「表示図書」に強制することも容認できません

 「表示図書」という呼称は、2001年の条例改定時に導入されたものです。同時期、出版4団体(日本書籍出版協会、日本雑誌協会、日本出版取次協会、日本書店商業組合連合会)で構成する出版倫理協議会がゾーニング委員会を設置する準備をはじめ、「成年コミック」「成人向け雑誌」マークに代わる業界統一の「R18」マーク表示の実施を検討していた時期に重なります。条例では、業界自身の「自主規制」の動きを先取りして、規制条項を新設したという経緯でした。
 行政の関与なく、自主的に行うからこそ「自主規制」というのに、それが条例に明記されたことに論理矛盾がありました。当時、出版労連は「『表示図書』とは、業界・事業者自身が自主的に行った判断である。それを行政判断の材料とすることは、行政権限の拡大を図り間接的な検閲を制度化する本末転倒な政策であり、このような憲法二一条にも抵触しかねない条文に強く抗議する」との声明(2001年4月2日付)を発しています。
 このような問題のある条項を利用して、「非実在青少年」にかかわる性的表現の規制に利用することを認めることはできません。

(6)国会の審議でも、創作物の規制に疑義が出ています

 国会では昨年6月、児童ポルノ処罰法の改定案が審議されました。当時の与党であった自民党・公明党が提出した改定案では、3年を目処に「創作物と児童の権利を侵害する行為との関連性に関する調査研究」をするとの条項が挿入され、これに対して、民主党や社民党の国会議員が疑義を呈しました。報道によると、自民党・公明党と民主党の有志議員の間で法案の修正協議が行われ、修正案では創作物の規制を含めないことで一致したとも伝えられています。自民党・公明党は別法による創作物規制を目指していると報じられているものの、いったんは児童ポルノ処罰法の改定案から引き下げ、慎重姿勢に転じる姿勢を見せました。
 また、第150回国会・衆議院青少年問題特別委員会においては、自公政権下の政府参考人が「有害情報と青少年非行との間の因果関係については、厳密な科学的な立証が難しい」(内閣法制局第一部長・阪田雅裕氏)と述べていました。創作物であれば、なおさら非行・犯罪との因果関係の立証は困難です。
 一部の政党が推し進める児童ポルノ処罰法の強化の動きに連動するかのように、「非実在青少年」なる用語を編み出して、「不健全」図書の指定事由に組み入れるとする東京都の目論見を認めるわけにはいきません。国会でも様々な議論のある創作物に対する規制を、東京都が率先して条例化すれば、禍根を残すことになります。

 以上のように、今回の条例改定には、いっさいの正当性がなく、あえて「非実在青少年」にかかわる表現を新たな指定事由、「表示図書」規制に加える理由はありません。



2.「表示図書類に関する勧告等」にかかわる条文について

 出版業界では「R18」等を表示した出版物は、成人向けコーナーなどで区分陳列(ゾーニング)を行っています。これは、あくまでも業界団体や出版社が自主的な判断のもとで行っているものです。にもかかわらず、公権力が出版社や自主規制団体に「自主規制」を行うよう勧告し、従わない場合、公表するというのは、「不健全」図書指定による販売規制以上の効果を有しかねない、実質的な「権力規制」となってしまいます。また、前項の指定事由の追加同様、憲法上の表現の自由を制限する条項であることは明らかです。第九条の三第2項?4項の新設を認めないで下さい。

(1)表現の自由を侵害する「内容規制」を容認できません

 東京都がこのような条項の制定を目指しているのは、第九条の三第1項で規制するコミック誌などの定期刊行物に加えて、コミックス(コミック単行本)なども行政の監視下に置き、「自主規制」を装った「権力規制」を容易にするためではないかと、危惧されます。条例改定案で「必要な措置をとるべきことを勧告することができる」とする、「必要な措置」の中身も明らかではなく、行政の一存で恣意的な運用も可能になってしまいます。
 現在、出版業界は雑誌などの定期刊行物が「不健全」指定を連続3回ないしは年5回受けた場合、「18歳未満の方々には販売できません」という帯紙を巻き、書店から定期部数の申し込みがなければ送品しないなどの措置(帯紙措置)を自主的に行っているところです。その雑誌とは異なり、コミックスなどの単行本は1点1点が別の商品であることから、出版業界の自主規制の対象になっていないことを理由に「6回アウト」のような制度を行政自らがつくろうとしているのか、あるいは、出版業界に同様の「自主規制」を強要しようとしているのか、いずれかの意図が見え隠れしています。
 従来、行政は、条例による規制は内容規制ではなく、あくまでも販売規制であり、憲法上の表現の自由には抵触しないと主張しています。このような主張を容認するわけではありませんが、しかし、別個の図書類を一まとめにして、出版社に対して勧告を行うということは、行政の言う「販売規制」ではなく、自ら「内容規制」に踏み込もうとしていると判断せざるを得ません。

(2)「自主規制」の悪用が危惧されます

 現行の東京都青少年条例の第十八条の二「審議会への諮問」では、「不健全」図書の指定に際して、都青少年健全育成審議会の意見を聴かなければならないとするとともに、「自主規制を行っている団体があるときは、必要に応じ、当該団体の意見を聴かなければならない」としています。自主規制を尊重し、自主規制団体の意見聴取を義務づけた条例は他の道府県にはなく、東京都の姿勢を示した独自の制度といえるものです。この条文に従って、現在、審議会の前には、行政が自主規制団体の意見を聴く、「諮問図書に関する打ち合わせ会」が開かれているところです。
 自主規制を尊重することによって、行政と自主規制団体が対等の関係に置かれ、謙抑的に条例を運用する担保となってきたことは明らかです。ところが、業界の自主規制である「表示図書」制度を条例に連動する制度として明記したことによって、自主規制団体が行政の下請け的に扱われるようになり、行政指導の対象となるという倒錯が起きています。従来の条例上の位置づけが骨抜きにされ、まったく異なった扱いになってしまいました。
 改定案によって、新たに「表示図書」に対する勧告・公表などの制度が設けられれば、出版業界内の「自主規制」のしくみが行政に悪用される危惧があります。この条項は削除すべきだと考えます。
 なお、東京都の青少年条例に「自主規制」を尊重する条項が明記されたのは、1964年、都議会に条例案が上程された際、社会党、共産党、公明党などが青少年条例の制定に反対をするも、公明党が「自主規制」条項の挿入などの修正案を提出し、自民党、公明党などの賛成多数で可決成立したことによるものです。当時、私たち出版労連をはじめ、出版団体や弁護士会、様々の市民団体が条例制定反対運動に取り組んだものの、修正案に自主規制団体の尊重にかかわる条項が入ったことで、結果的に、条例の運用を監視するしくみができたということになります。
 また、他の道府県条例すべてが「有害」図書の呼称を用いるのに対して、東京都条例は「不健全」図書の名称を使うことになったのも、原案を修正した結果でした。以後、「有害」の名のもとに広く規制の網を被せるのではなく、限定的な規制であることを示した特別の用語として用いられていると出版業界では受けとめられています。

3.児童ポルノにかかわる条項について

 すでに、現行児童ポルノ処罰法によって、いわゆる「児童ポルノ」の取締りが行われており、東京都が条例化して規制を行えば屋上屋を架すことになります。また、国会においては、児童ポルノ処罰法の改定案が上程されたものの、法務委員会の審議においては「単純所持」の処罰化の導入などに疑義が呈され、また、3号ポルノの定義など現行法のあいまいさが指摘されているところであり、これらの問題点を捨象する条例改定は容認できません。国会の動きを静観し、改定案の第三章の三「児童ポルノの根絶に向けた気運の醸成及び環境の整備」の条項すべてを削除して下さい。

(1)国会審議では自公改定案はもとより、現行児童ポルノ処罰法の問題点も明らかになっています

 児童ポルノ処罰法の定義はこうなっています。
 一  児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態(1号ポルノ)
 二  他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの(2号ポルノ)
 三  衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの(3号ポルノ)
 実在の児童の権利・人権を侵害する児童ポルノの取締りは当然のことです。
 しかし、児童ポルノ処罰法の改定を審議した昨年6月26日の衆議院法務委員会での審議では、自民党・公明党改定案の提案者である自民党議員(元警察庁官僚)が、かつてのミリオンセラーである宮沢りえの写真集『サンタフェ』が自公案では児童ポルノにあたる可能性があると示唆し、一定期間のうちに廃棄しなければ所持者が処罰されかねない法案であることがわかりました。1号・2号ポルノの定義はほぼ明確ですが、3号ポルノの定義では『サンタフェ』も児童ポルノと見なされ、この条文の規制範囲のまま単純所持罪が制定されれば、大量の犯罪者を生み出すことになりかねません。
 自公案が成立すれば、『サンタフェ』やそれに類似する写真集を発行していた出版社や編集者、写真家、印刷所、取次・書店等も、ネガや紙焼き、原版・刷版、図書等の処分を求められかねず、保管・販売を続けていた場合、家宅捜索を受け、関係者が逮捕されるような事態も予測できます。「転校生」「台風クラブ」「青い珊瑚礁」のような、18歳未満の女優が出演していた過去の一般的な映画やビデオなどにも多大な影響が出てくることになります。
 青少協答申を典型に、G8(主要8カ国)のうち、児童ポルノの単純所持罪を導入していないのは、日本とロシアだけだとして単純所持の処罰化を求める主張があります。ところが、アメリカでは「文学的・芸術的・政治的・科学的価値のない」表現と児童ポルノの範囲を限定したり、ドイツでは14歳で年齢を区分したりと、法律の規制範囲は様々です。 また、国会審議では、単純所持規制を導入したことによって、他国では性犯罪が抑止されているのかを国会議員が法務省刑事局長に質問したところ、「諸外国における児童に対する性犯罪の動向に関する統計資料でございますけれども、私ども、手元に有しておりませんので、今の御質問に対してお答えできません」と答弁しています。自公法案を推進する人々が単純所持規制によって犯罪が抑止できるとしていた主張は、証明されていないことが明らかになりました。一方で、性犯罪の発生件数は、G8諸国のうち、日本はきわめて少ない(8カ国中8位)とする統計上のデータが存在しています。
 このような問題点や疑義が示されているにもかかわらず、青少協の答申では「意図せざる所持が処罰の対象とならないよう配慮することは当然であり、また、規制の対象が現行児童ポルノ法よりも狭まることのないよう留意することが必要である」と記述し、3号ポルノ等の定義のあいまいさや規制の実態を無視して、実質的に自公改定案を後押しする内容になっていました。東京都が提出した条例改定案の第三章の三「児童ポルノの根絶に向けた気運の醸成及び環境の整備」の条項は、論証を欠いた青少協答申をそのまま取り入れたものでしかありません。
 なお、国会審議においては、自民・公明党推薦の参考人として国会議員の質問に答えた青少協専門部会長の前田雅英氏が憲法上の疑義のある共謀罪について、「アメリカの現場では、本当に児童ポルノに対して厳しい感覚を持っていて、徹底して調べる。その捜査官の人の話を伺ったことがあるんですが、そのためにはやはり共謀罪というのは有効なツールだと彼らが考えているということは容易に推測できるというふうに思っております」と紹介していました。児童ポルノ禁止法の強化と共謀罪制定の圧力、そして今回の条例改定案は、一続きのものではないかと判断せざるを得ません。
 また、青少協答申でも「『自己の性的好奇心を満たす目的』(故意)の立証は自白の強要につながり、えん罪を生む危険性がある」という疑義が出されていると紹介しているように、国会において民主党・社民党の議員や民主党推薦の参考人らが、「単純所持」を犯罪化することによって、捜査機関による法の乱用や恣意的な取締り、冤罪による人権侵害のおそれがあるなどと指摘しました。海外の摘発例では、家族との入浴写真でさえ、児童ポルノとされたり、反戦活動をしていたミュージシャンがでっち上げ的に逮捕されたり(後に釈放)という事件が起きているとも伝えられています。

(2)条例改定案は、法と道徳の分離を蔑ろにしています

 改定案の第三章の三では、「児童ポルノを根絶すべきことについて事業者及び都民の理解を深めるための気運の醸成に努めるとともに、事業者及び都民と連携し、児童ポルノを根絶するための環境の整備に努める責務を有する」(第十八条の六の二第1項)と記述したり、「青少年性的視覚描写物」なる用語を創作して、これを「まん延させることにより青少年をみだりに性的対象として扱う風潮を助長すべきでないことについて事業者及び都民の理解を深めるための気運の醸成に努めるとともに、事業者及び都民と運携し、青少年性的視覚描写物を青少年が容易に閲覧又は観覧することのないように、そのまん延を抑止するための環境の整備に努める責務を有する」(第十八条の六の二第2項)といった条項を新設しようとしています。
 3号ポルノの定義のあいまいさは、国会審議で明らかになったところであり、警察の恣意的運用のおそれさえあります。あいまいな定義のままに、児童ポルノの条項を設けるのは権力行使の伴う条例の条文としてふさわしくはありません。
 また、現行の青少年条例では、青少年に対する図書類の販売規制という体裁を取っています。大人が読む・見ることを制限するのではないから、出版の自由には抵触しないという論理でした。ところが、条例改定案では、(児童ポルノではない)「不健全」指定図書や「表示図書」などを含めた「青少年性的視覚描写物」なるものの「まん延を抑止する」としています。成人者の読書・閲覧をも制限しようとする意図は明らかであり、最高裁判例に照らしてもこのような条文は違憲の疑いがあります。憲法の命令により、主権者の権利たる表現の自由を守るべき義務を課されている公権力が、それに違背する法や条例を制定することは認められません。
 さらに、「まん延」「風潮」「気運」なるあいまいな用語のもと、条例によって性道徳や倫理を強制するのは、近代法制の基本である「法と道徳の分離」に反すると考えます。

(3)拡大解釈を可能にする不自然な条文があります

 第十八条の六の四第1項では「何人も、児童ポルノをみだりに所持しない責務を有する」と記述されています。他の条項では「都民」が主語であるにもかかわらず、「何人」に置き換えられているのは、何らかの意図を含んでいるのではないかと考えられます。
 第十八条の六の五第4項では「知事は、前項の指導又は助言を行うため必要と認めるときは、保護者及び事業者に対し説明若しくは資料の提出を求め、又は必要な調査をすることができる」と記述されています。指導・助言・調査などを知事部局の限定された職員が行うのか、警察が行うのか、あいまいな条文です。
子どもの自己決定権を侵害して、本人の意に沿わないかたちで被写体となるようなことがあってはならないのは当然のことです。撮影現場で人権侵害・権利侵害があったならば、児童福祉法や職業安定法などによる取締りが行われて然るべきだと考えます。しかし、改定案の「保護者等の責務」の項で想定する(犯罪化されていない)「青少年を性的対象として扱う図書類」にかかわる保護者などに対する指導・助言・調査の主体を明らかにしていないのは、やはり何らかの意図を含んでいるのではないかと考えられます。
 国会解散で廃案になった民主党の児童ポルノ処罰法の改定案では、現行法が児童を保護する機関を単に「関係行政機関」としていたものを「厚生労働省、都道府県、児童相談所、福祉事務所、市町村その他の関係行政機関」と明示するものになっていました。警察の関与をなくし福祉的な対応を目指したとの説明がなされています。
 このような論議があるにもかかわらず、東京都が警察の関与を拡大するようなことがあってはならないと考えます。

4,ネット規制にかかわる条文について

 出版各社とかかわりの深いケータイ小説やデジタルコミックは青少年の日常に浸透し、生活の一部にもなっています。条例による規制によって、青少年のこれらのメディアとの接触機会が損なわれてはならないと考えます。
 一方で、ケータイマンガなどを事業化している出版社で構成するデジタルコミック協議会は、「18禁」マークを制定し、区分販売の態勢を整えたものの、携帯キャリアの公式サイトでは大人への販売そのものが困難な状況となっていると聞いており、条例強化によって、(条例が関知しないはずの)大人への販売がいっそう厳しくなる事態が予想されます。
 青少年のメディアとの接触機会を保障すること、事業者の活動を阻害しないことに留意すべきだと考えます。
 携帯キャリアやネット関連の自主規制団体からは、改定案は憲法違反の条項があるとの指摘もなされていると聞いています。過激な規制を行うべきではありません。

5.改定案全体の問題点について

 現行の条例では、「青少年にとって不健全」という前提のもと、「有害」の用語の使用を排除しています。実際には「有害広告物」の条項に使われているだけでした。ところが改定案では、ネット規制と児童ポルノ規制にかかわる条文に、固有名詞(法律名)とは別に、「有害」の用語が挿入されていました。1964年の条例制定時の都議会の議論を踏まえるならば、特定の価値観を反映した「有害」の用語は使うべきではありません。言葉だけの問題のように見えますが、規制範囲の安易な拡大だけでなく、条例の変節を追認することになってしまいます。あらためて、「不健全」の用語が使われている意味合いを再確認してください。



6.現行条例の不備とそれに付随する問題について

 私たち出版労連は、2003年12月17日に第25期東京都青少年問題協議会各委員並びに東京都に宛てて、「自主規制型条例を堅持し、慎重審議を求める要請書」を、2004年2月2日には都知事に宛てて「第25期東京都青少年問題協議会答申に対する意見」を提出し、その際、「不健全」図書指定の可否を審議する健全育成審議会の全面公開、「不健全」指定の取り消し・異議申立手続きの整備、国連・子どもの権利条約にもとづく子どもの意見表明権の尊重も同時に求めています。これらはいまだ実現していません。また、従来、傍聴が認められていた青少協の会議が、今期は総会と拡大専門部会を除き、全面非公開となりました。密室審議の結果、異常な答申がまとめられてしまったといえます。条例改定案の審議に際して、以上の事柄を精査し、諸手続の整備、徹底した情報公開を是非とも実現して下さい。

(1)指定処分取り消しの手続きの不備をあらためるべきです。

 かつて出版社の宝島社は、同社が発行する雑誌2誌が東京都によって「不健全」指定されたことに対して、青少年条例による「不健全」指定制度は憲法違反であるとし、指定処分の取り消しを求める行政訴訟を東京地裁に提起しました。一方の東京都は「処分性がない」として門前払いを求める答弁書を裁判所に提出しています。裁判自体は宝島社の敗訴となったものの、裁判所は「不健全」指定が出版社に対する処分であることを認めました。
 このような経緯があるにもかかわらず、現行の東京都条例においては、指定処分に対する異議申立手続き、処分取り消しにかかわる手続き等がいっさい明記されていません。
 たとえば、もっとも厳しい青少年条例のひとつとされている岐阜県条例では「有害興行の指定等」の項のみではあるものの「第五条4 知事は、第一項の規定により指定した興行の内容が同項に規定する理由に該当しなくなったと認めるときは、当該指定を取り消さなければならない」という規定があります。
 また静岡県条例では「一般からの申し出」の項で「第十九条 何人も、第七条第一項若しくは第八条第一項の推奨、第九条第一項、第十条第一項若しくは第十二条第一項の指定又は第十一条第一項の取消しをすることが適当であると認めるときは、知事に対し、その旨を要請することができる」としています。この規定にもとづいて図書館団体が「有害」指定された図書の「指定の取り消し申請」を静岡県知事に対して行い、実質審議が行われたという例もありました。
 さらに自治体によっては、一定期間を経て、「有害」指定の効力を失うとしているところもあると聞いています。
 2004年1月19日の青少協総会では、委員の酒井朗お茶の水女子大学教授が「指定図書について、なぜそれを指定したのかという情報の公開とか、あるいは、異議の申立てとそのプロセス、そうしたものをすべて含めることが、公平・適正さを確保する上で重要だと思いますので、今後の対応のされ方について、ぜひご検討いただければと思います」と提案していました。それに先立つ起草委員会においても、精神科医の斎藤環委員が同様の提案を行い、加藤諦三青少協副会長が賛意を示し、異論は出ませんでした。
 ところが、答申には盛り込まれず、青少協の審議経過を承知しているはずの都当局が策定した当時の青少年条例の改定案にも明記されず、異議申立手続きの整備等を求める声を無視したかっこうになっています。
 東京都条例にあってはこのような指定取り消しのための手続き規定がないままに、一方的に「不健全」指定を行っており、まさに条例の不備といえます。異議申立、取り消し手続きの明文化によって公正な条例の運用を行うしくみを都議会として検討して下さい。

(2)密室審議となっている青少年問題協議会や健全育成審議会の運営をあらためるべきです

 東京都の「会議の運営要領」という文書では「審議会は公開で行うものとする。ただし、審議会の決定により非公開とすることができる」「審議会の会議録等は、公開するものとする。ただし、東京都情報公開条例第7条の規定に該当する場合は除く」としています。
 東京都情報公開条例の精神に則れば、「但し書き」を準用する会議は極力なくすべきものと考えます。にもかかわらず、「不健全」図書類の指定について都知事の諮問を受けてその可否を審査する健全育成審議会においては、都民や事業者の権利・義務にかかわる重大な問題を審議しているにもかかわらず、都民の傍聴をいっさい許さず、議事録も発言者名を黒塗りにした「一部公開」でしか公開されていません。前述のように、今期の青少協の会議も、専門部会と起草委員会が非公開で行われました。しかも、起草委員会の議事録は公表されていません。
 密室審議を許さないために、情報公開条例の精神を再確認するとともに、「青少年問題協議会・健全育成審議会は例外なく公開で行うものとする」等の規定を関連する条例などに設けて下さい。

(3)当事者たる青少年の声を聞いてください

 国連子どもの権利条約には、下記のような定めがあります(政府訳)。
 第12条
 1 締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。
 2 このため、児童は、特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる。
 第13条
 1 児童は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。
 2 1の権利の行使については、一定の制限を課することができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。
 (a) 他の者の権利又は信用の尊重
 (b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護
 子どもの「意見表明権」「情報アクセス権」を明記した記述です。条例はもとより法律の上位にある条約に則った適正な条例の運用をするためにも、いままで行政が怠ってきた当事者たる青少年(子ども)の意見を聞く努力をするよう条例に明文化して下さい。

 以上の点をご考慮いただき、「言論・出版・表現の自由」と「流通の自由」を侵害する条例強化に反対するとともに、条例の不備を正して下さるよう要請いたします。


<別紙>
第28期東京都青少年問題協議会答申素案に対する意見(抜粋)

1.青少年問題協議会の運営について

(1)学識経験者枠委員の人選に疑義がある

 青少年問題協議会の議事録を読むと、従来の青少協の議論とは異なり、規制一辺倒で貫かれ、公正な審議が行われたとは認められない。
 具体例として問題のある発言の一部を議事録から抜粋する。

○前田雅英専門部会会長(首都大学東京法科大学院教授)

 前に青少協でやったときも、ポルノを禁止するというときに、一番強く反対とかメールを送ってきたり、脅迫状とかということをやった人たちは漫画家集団なんです。特に児童ポルノをかいている人たち。この人たちはいわば狂信的なグループではありますよね。(第1回専門部会)

 どう考えても、実在する人がいなければ、どんな漫画でも許されるというのはおかしいので、あと、それが175条のわいせつ物に当たらない限りは許されるというのは、皆さんかなりおかしいとは思っているので、そろそろ前に出なきゃいけないと思うんですが、出る以上は腰を据えていかないと、漫画の問題は非常に大変だと。(第8回専門部会)

 児童ポルノみたいなものがあるから幼児に対する虐待的なものが増えるのか、増えないのか、データが有るのか、無いのか、エビデンスを示せみたいな議論が必ずあるわけですね。(中略)
 あるところから先は水かけ論になってしまうんですが、最後は、法律の世界では常識で、こういうものがあったら増えるという人が多い感じがあれば法的に禁止するのは当然。そのときに統計データがなければ禁止できないというのはナンセンスだと思いますね。(第8回専門部会)

 被害者の存在しない創作物の規制に反対するマンガ家やマンガの読者に対する悪意の表明ではないか。憲法上の権利にかかわる規制にエビデンス(証拠)を要しないとする特殊な主張は認めがたい。

○ 新谷珠恵委員(東京都小学校PTA協議会会長)

 子どもが被害にあったり犯罪を犯した場合には、その親に対して罰則なり勧告なり、責任を自覚させるようなシステム、規定、そういったものも一歩踏み込んでやってもいいのかなと思います。(第4回専門部会)

 被害にあった児童の保護者に罰則を科し、勧告を行うというのは尋常な主張ではない。

 雑誌・図書業界のためにも、きちんとした規制をしてあげることが、結局、悪質な業者、悪質も出版社が淘汰されていくということにもなるので、さっきの方たちに質問ではなくて言いたかったのですが、皆さんのために健全な業者、出版社を生かすために、どんどん悪質なものはペナルティーを科して消していくというような仕組みがかえって皆さんのためにもいいのではないかと思いました。(第7回専門部会)

 青少年条例による規制は、あくまでも青少年に対して「不健全」指定図書の販売を規制するものであり、出版そのものを禁止する規制ではない。「出版社を消していく」ことを求めるのは、条例の趣旨を逸脱するものである。このような発言が出て、その発言を修正する指摘がなかったことから、青少協での議論は前提を欠いていたことの証明といえるのではないか。

 規制とか法律というのは、公共の福祉の全体の、国民全体にマイノリティとマジョリティがあると思います。マイノリティに配慮しなくてはいけないということは当然ですが、それのプラスとマイナスが相反する場合が多い。そういったときにどっちをとるのかというと、全体の福祉というかプラス、それをとっていくというのが、行政というか、全体のスタンスではないかと思うんですね。(中略)
 全体としてガンと持っていていいと思うんですね。マイノリティに配慮しすぎたあげく、当たり前のことが否定されて通らないというのはどうしても私は納得できない。(第8回専門部会)

 言論・出版の自由は、少数者の権利を保障することで成り立っているものである。そのことへの理解を欠いているのではないか。

○大葉ナナコ委員(有限責任中間法人日本誕生学協会代表理事)

 例えば児童に対する児童ポルノの愛好者の人たちが児童に悪影響を与えるとか、漫画のひどいものが出ているといったら、その人たちはある障害を持っているんだというような認識を主流化していくことはできないものかというのを、お話を聞いていて思いました。
 漫画家の方たちがすごい議論を持ってきて、何とか法制化するという人たちに対して攻撃をするということだったんですけれども、どう考えても暴力で、エビデンスを出す時間もない、必要もないぐらい暴力ですね。(中略)
 性同一性障害という同じ位置づけで、子どもたちに対する性暴力を好む人たちを逃がしていくとしたら、障害という見方、認知障害を起している人たちという見方を主流化する必要があるのではないかと思うんです。(中略)
 対策論の中に、そういった障害、認知に対して障害がある、感性だけだったら、暴力だということがわかっているんだったら、証拠もないのにという議論を突破できるような対策も考えていきたいなと思いました。(第8回専門部会)

 エビデンスを否定するとともに、犯罪行為とはかかわりのない性的マンガの愛好者を差別の対象とする意思を表明したと受けとめざるを得ない。

 以上の発言はごく一部の例である。一方で、議事録では、このような暴論や差別的主張をいさめる発言を見いだすことはできなかった。青少協の学識経験者委員、および東京都の当局者らは、子どもの人権を守るかのような議論をしていながら、他者の人権には配慮のない議論を行い、また容認し、さらには、憲法上の権利たる言論・出版・表現の自由には無頓着であったことは明らかである。このような論者らによって策定された答申素案に正当性があるとはとうてい考えられない。
 2004年の青少年条例改定を答申した25期青少協においては、少なくとも規制強化に反対ないしは消極的な委員が一定存在した。だが、今回の議論の流れを見るに、28期委員の選任の際には、そもそも規制に慎重な委員をはじめから排除していたのではないかと疑わざるを得ない。例えば、刑法を専門にする委員は選任されているが、憲法を専門にする委員はいない。警察出身の弁護士の委員は選任されているが、他の弁護士を職業とする委員を含めて、日本弁護士連合会の発した「『児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律』見直しに関する意見書」(2003年2月21日付)や「表現の自由を確立する宣言」(2009年11月5日付)等の趣旨に則ったと思われる発言を確認することはできなかった。子どもの保護・育成を主張する立場の委員は選任されているが、子どもの権利に配慮した論者は見あたらない。
なぜこのような委員が選任されたのか、その理由を明らかにすべきである。

(2)答申素案の起草委員に偏りがある

 答申素案の策定作業に携わった専門部会の委員(起草委員)の人選にも疑義がある。
 起草委員会には、青少協副会長の加藤締三氏(早稲田大学名誉教授)、専門部会長の前田雅英氏、ECPAT/ストップ子ども買春の会顧問の後藤啓二氏、財団法人インターネット協会主幹研究員の吉川誠司氏が選任され、素案をまとめている。
 前田氏は、6月26日、衆議院法務委員会で児童ポルノ禁止法の改定案が審議された際、自民党・公明党推薦の参考人として国会議員の質疑に答えた立場にある。警察庁総合セキュリティ対策会議委員長や警察庁少年非行防止法制の在り方に関する研究会座長を務めるなど警察とのつながりが深い。
後藤啓二氏は、警察庁の元官僚であり、警察庁総合セキュリティ対策会議の委員でもある。後藤氏が顧問を務めるECPAT/ストップ子ども買春の会は、自民党・公明党が提出した児童ポルノ禁止法の改定案の策定にかかわりのある民間団体である。吉川誠司氏は、警察庁から業務委託を受けて、ネット上の「違法」「有害情報」にかかわる情報収集とその対処を行っているインターネット・ホットラインセンターの副センター長を務めている。
起草委員4人のうち、3人が警察と強いかかわりがある人物であった。特定の立場を反映して、恣意的に答申の素案を作ろうとしたのではないかと疑われかねない人選である。この観点からも答申素案の正当性に疑問を抱かざるを得ない。

(3)会議が非公開で行われたことは容認できない

 従来、傍聴者、取材者に公開されていた専門部会、起草委員会が、28期では非公開とされた。しかも、専門部会の議事録のネット上の公表にかなりのタイムラグがあり、その上、起草委員会の議事録は未だ公開されていない。
 第2回専門部会では、加藤諦三副会長が「専門部会の場合には、どちらかというと専門的なことを議論する場ですので、できるだけ静かな環境の中で議論するということと、外部からのいろいろな圧力があって発言しにくいというような環境ができないことが望ましいと考えております。/そういうことで、協議会としては公開だけれども、28期については議事録は公開する、ただし、この部屋で議論する、この場に傍聴の方が入ってくる、で、何らかの圧力があるというようなことで、専門部会の中立性が侵されるということは好ましくないと考えます。/ただ、ここで議論された内容は公開されますし、拡大専門部会で、この内容はさらに報告されて中間答申のようなことができたときは、もちろんそれを都民に公開して都民のご意見を伺うというようなプロセスを経ておりますので、専門部会の議論は中立性を保って、いろんな圧力を感じないで自由に議論ができるという環境が、28期の場合には望ましいのではないかと考えておりますけれども、いかがでしょうか。よろしいでしょうか」と提案し、会議を非公開にした。
 だが、(1)で各委員の発言を抜粋したごとく、とうてい中立とも公正とも言えない暴言・放言・差別的発言が飛び交っていた。法律(地方青少年問題協議会法)にもとづく公の会議であるにもかかわらず、監視役たる傍聴者・取材者の目に触れないところで、無責任かつ安易な議論を行っていたと受けとめざるを得ない。
その上、議事録を公開した後の反応・反響に対して、前田部会長は「途中の議事録に関してあれだけ過激な反応が出てきてしまうということは、答申案についてこれを公にしたときに、この言葉尻を捉えて、かなり悪意に満ちた曲解みたいなところもあると思うんですが、そういう議論をする人たちが注目して見ているものだということは前提にまとめていかなければいけないと思っております」「脅し的なものがあって怯んで中身がシュリンクするということを認めるという趣旨ではないんですけれども、無用な足を引っかけるような人たちが引っかけにくいようにしておくことが大事だ」(第9回専門部会)などと、議論の中身を省みることなく、危機管理的な対応を促すという、不自然な対応を出来させることとなった。
 このように、傍聴者を排除したことによって、中立・公正な運営が損なわれたことは明らかである。青少協の会議は従前通り公開とすべきであり、従って、そのような手続きを経ずにまとめられた今期青少協の答申素案には、その正当性に疑問符を付けざるを得ない。

日本出版労働組合連合会
中央執行委員長 大谷 充



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