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   なぜ公益的な運動か?

(1) 労働組合の役割と歴史
   [おさらい,前提]

・労働市場における個としての労働者は,力をもつ資本の前では無力に等しく,個としては人間らしい労働と生活を実現することは,ひじょうに困難。そうした個としての労働者が,連帯と助け合いの輪に結集する(団結する)のが,労働組合。ただし,日本で労働組合の活動がきちんと合法化されたのは,現在の日本国憲法になってからであって,歴史的にはごく最近のことといえる。

・労働者が労働組合に加入して,人間らしい労働と生活を求める運動を展開することは,単に生活水準の向上につながるだけでなく,平和と民主主義の担い手として活動することになる。そのため,利潤追求を第一とする資本の目には,労働組合が自らの目的実現に対する障害とうつる。ここに労使の基本的な対立が生じる。利害の対立しやい労使関係を調整する公的なしくみは,歴史的な闘争を経て,憲法の団結権の保障などに結実している。

・しかし,憲法の保障された権利ですら,闘うことなしには,保障されない。「権利は眠れるものを保護しない」。労働組合がおもに企業別に組織されている現状では,個々の組合(員)や労働者の,日常的,具体的な場面では,職場(企業)ごとの労使の力関係に依存することが多い。その結果,労働条件,労働組合の権利については,企業ごとの格差は,ひじょうに大きくなっている。格差社会は近年の政府の「構造改革路線」によって拡大したが,それ以前が格差の小さかった社会であったとは,とても言えない。


(2) 公益的な運動が求められるのは,なぜか?
   [ここが本論]

@ 資本,政府が闘う労働組合を敵視し,その活動を制限する労働法制の改悪をすすめている現状ではとくに,社会に対して労働組合の存在意義をアピールしていくことが求められている。国民,市民の支持がないと,労働組合は,ますます少数派に追いつめられてしまう。

A 労働組合が公益性を発揮しないと,団結権とか争議権など,憲法で保障された権利ですら,労働組合の後ろ向きの既得権益とか特権と見なされてしまう。社会からは「組合は特殊利益を追求する私的な共益団体」とみられてしまう。そういう悪宣伝が資本,政府から集中され,マスコミで宣伝されるようになると,公務員は働かない,組合員はウラ協定などでさぼる,といったことが「常識」にされてしまう。

B 少数組合,少数職場では,共益的な活動がそのまま公益的な意味を持っている。そのため,組合(員)として,公益性の観点と理解がはっきりしていないと,職場の多数の非組合員(フリーライダー)の存在が許せなくなったり(少数の自分たちだけが苦労して,他の人は楽して果実だけ得ていると考えたりすること),理解できなくなってしまう。

C しかし,賃金,一時金が,賃金体系表と査定で個人別に決まり,一発回答で終結せざるをえないような職場では,賃金や一時金の要求,団交,協定に,公益的な意味がなくなっている。労働組合の運動の公益的な面を否定する労務政策に対して,わたしたちは,さらなる公益的な要求と,公益的な運動を対置することが求められている。

D 組合員の多様な関心と課題に対応せず,特定のとくに企業内の要求実現運動だけに取り組んでいると,要求が実現しにくくなるにつれて,組合員の組合への関心や期待は低減していく。企業外でも,仲間としての連帯感を実感できる運動,各人の力を発揮していきいきと活動できるフィールドが求められている。

E 労働組合の運動の方向との関連。

 1.企業内の要求実現の課題…経営者に要求を出して,職場の要求の実現。しかし,職場の要求闘争は,企業(資本)の論理の影響を受けやすく,労働組合の基本的な機能を失わせてしまう危険性がある。労働組合が企業内の要求闘争(環境改善闘争)に終始している間に,組合員が社会性を喪失し,道徳性や倫理性を失って(連帯や助け合いの理念を失い,資本の競争原理を受け入れて)しまっているのではないか,という批判がある。そして,職場のいじめ,メンタルヘルスの異常,過労死や在職死亡などへとつながる一因となっているのではないか。職場=労働組合が,いじめ,メンタル不全,過労死,在職死亡などを未然に防ぐ機能(連帯,助け合い,競争拒否の倫理)を低下させているのではないか。

(労働組合の基本的な機能が発揮されず,労働者の健康や生命を守るという根本において機能不全に陥っている例が出てきている原因は,他にも求めることができるだろうが,その分析が必要となっている。)

2.政治的な課題…労働組合として,課題に一致するナショナルセンター,労働組合,市民団体,政党などと協力して,取り組む必要がある。出版労連なら,とくに,言論・出版・表現の自由など,産業の存立に関わる課題や,民主主義,平和に関わる人間としての課題は,見過ごすことはできない当然の課題である。しかし,「政治的な課題は,労働組合の課題ではない」という資本の攻撃がある。また,古くから,政治的な課題を特定党派の利益に誘導しているという批判がある。そうした影響を受けて,組合内にもこの課題に取り組むことの反対派がある。

 3.社会的(公益的)な課題…三つ目の軸をつくり,企業内に向かいがちな労働者の目を,さらに企業の外へ。全国一律最低賃金制など労働条件に関する問題のほかに,環境,助け合い,連帯,労働者の倫理などの課題も提起できるのではないか。
F 自らの生き方,アイデンティティをもとめる組合員を大切にする。
 少数でも,自ら生き様として求めている課題を認めあって,理解し合う風土を大切にしたい。

G 労働運動が企業内だけの要求の運動であれば,企業を定年退職した組合員は,お役ご免になる。
 労働運動が社会的な運動であれば,企業を定年退職した組合員も,継続して参加できる。

H 公益的な運動,職場の力関係から独立した(職場を基礎にしない)要求と運動がすすめば,組織を拡大することができ,その中から,人材が生まれてくる。

I 労働組合の組織拡大は,それ自体が目的ではなくて,それは,むしろ手段。労働組合は,一人でも多くの労働者が人間らしい生活と労働を獲得できるようにすることを目的とするわけで,組織を拡大することによって,その目的を実現できる。こうした目的を実現するために,組織拡大を追求していることの確認も重要。組織拡大は労働組合の共益機能の拡大でもあるが,それが同時に労働組合のもつ公益性の拡大であることが,多くの労働者,国民市民に見えるようにしていくことが大切ではないか。


(3) 労働組合の人材の育成について
   [……ではないか?]

・企業内の要求運動で育った人材が,労働組合の幹部(労連の中執など)に多いと,
 運動全体を広く見わたすべき目が,企業内の要求運動に偏るのではないか?
 個人加盟ユニオンの立場が,理解されにくい状況ではないか?
(個人加盟ユニオンでは,職場で要求を出している組合員が少なく,一人職場という個人組合員が多い)

・企業の業績悪化,組合員の減少などにより,企業内の要求運動がおとろえると,企業別組合の運動がおとろえていくので,そこだけを人材の供給源としていると,今後,ますます人材が育たなくなるのではないか?
 その結果,
→単組の執行部のなり手がいない,中執のひきうけ手がいない状況が,ますます深刻化するのでは?
→単組の委員長が中執を兼任するというような状況は,正常とはいえないのでは?

・組織の拡大には,運動の拡大や活性化がまず必要ではないか? 運動が人材を生み育てるのではないか?

・運動を拡大し活性化することによって,活動する人がふえ,人材が育っていくようになるのが,本来の道筋。労働組合が提起する活動の中に,組合員が関心を持てる運動,参加したい運動がなく,自らの関心で参加したい運動を提起することができないようでは,人材はなかなか育たないのでは?

・この場合の拡大し活性化させるべき運動とは,公益的な課題を追求する運動のこと。手を挙げて集まった人で自主的に展開するような運動形態を想定している。

(出版ユニオン京都,支部長 吉田明生)
(2007.7.16)
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